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2013年8月20日 (火)

《図書館》読書新聞『葦』78号のご紹介(第2回)

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7月20に読書新聞『葦』78号を発行いたしました。

前回ご紹介しましたが、本校では年に2回教職員が生徒に
オススメの本を紹介する読書新聞を発行しております。

今号では、数学科の教員や司書、
本年度着任した教員が本の紹介をしております。

前回のご紹介に引き続き、
『葦』78号についてご紹介いたします。

◆谷崎光『北京大学てなもんや留学記』 英語科 嶋村有貴子

Photo_8 皆さんは中国という国に対してどういうイメージを持っていますか。横浜には中華街がありますし、中国人の知り合いやお友達が周りにいるなど、親しみを持っている人もいるかもしれませんし、近年の日中間のトラブル、暴動や抗日デモなどの報道を見て、あまり良いイメージを持っていないという人もいるかもしれません。

 私は高校を卒業して大学の英文科に入学しました。大学では第二外国語が必修で、春休みの間に選択しなければなりません。私は母がドイツ語をやっていたこともあり、何となくドイツ語と決めていたのですが、春休みの間、『大地の子』という中国残留孤児をテーマにしたTVドラマを見て、「隣国、中国と日本は古くから深い関わりを持っていた。日本人としてアジアのことをもっと知らなくてはならないのではないか」と思い、中国語を履修することに決めました。本当は「中国語は簡単だ」という噂に流されただけなのかもしれませんが。

 実際に中国語を勉強し始めると思ったより難しくて、挫折しそうなほどでした。何とか単位は修得したものの、合格点スレスレ…英語は得意でそんな成績をとったことはなかったので、語学でこれほど苦労するとは思ってもいませんでした。

 時は流れ、カナダに一人旅に出るときに空港の本屋さんで出会ったのがこの本です。まだ、領土問題や抗日運動が活発化していないときでした。「てなもんや」という少し変わった本のタイトルに惹かれ、読んでみることにしました。

 著者は日本の大学を中退後、中国に渡り北京大学へ留学している方です。中国での日常生活をはじめ、中国語の勉強から医療・教育・社会・政治システム、反日感情の裏側といった話まで、おもしろおかしい口調で書かれています。安いトイレットペーパーを使ったらお尻が真っ赤!とか、少し衝撃ですが面白いエピソードが満載です。大学に入学する前にこの本に出会えていたら…と思ってしまう1冊でした。

 好き、嫌いは別として、私たち日本人は隣国にして大国である中国とは今までも、そしてこれからも無関係、無関心ではいられないのではないでしょうか。解決すべき問題はたくさんありますが、中国なしでは日本の、世界の経済が成り立たないのも事実です。中国のことを理解しようと思ったとき、わかりやすくおもしろく教えてくれる本だと思います。難しい本は苦手、という人でも、友達からのメールを読むように読める部分もありますので、ぜひ手に取ってみてください。

◆佐々涼子『エンジェルフライト』 国語科 髙場恭子

Photo_11 いくつかの新聞で話題になった作品なので、既に手に取っている人もいるかもしれません。本の表紙に書かれていた国際霊柩送還士という聞き慣れない言葉に関心を持ち、私はこの本を読み始めました。

 エアハース・インターナショナルという会社は日本で亡くなった遺体をエンバーミング(防腐処理)して海外に運ぶ場合や、その逆に海外から送られてきた遺体の状態に応じて再エンバーミングをし直し、遺族に引き渡すという仕事をしています。ノンフィクションライターの佐々涼子さんはエアハースの社員や今までエアハースが関わった遺族の方々に取材して、遺体搬送というビジネスの日本での現状や、日本人の死生観、最愛の家族を突然失った遺族の悲しみと死を受け入れるまでの過程を自分自身の個人的な体験を織り交ぜながら私たちに伝えています。

 遺体搬送という仕事をテーマにしていますが、その衝撃的な仕事の中身より、エアハースの社員や佐々さんの仕事に対する姿勢を通して「プロフェッショナル」とはどういうことかが問い続けられている作品だと私は感じました。ですから、中高生の皆さんにも是非読んでいただければと思うのです。

 今、子どもの時から将来何になるのかを意識させられる機会が本当にたくさん作られていますが、好きなことや、やりたい職業を見つけることができずに悩んでしまう高校生や大学生も実はたくさんいるはずです。けれども将来の自分の姿を頭の中で夢見ているだけでは、理想の仕事に出会えるわけはないのです。思い切って世の中に飛び込んで、理想とは違っているかもしれないけれど体を使って仕事をしてみることが大切です。世の中には人の数だけ仕事があるといいますから、皆さんにとってまだまだ未知の分野が隠れているはずですし、実際に皆さんが社会に出た時に感じる違和感が元になって、新しい分野の仕事を作り出すきっかけになるかもしれません。国際霊柩送還士とはまさにそのようにして誕生した新しいビジネスでした。

 また、どのような仕事においても誠意と想像力と信念を持つことが必要だということをこの本を読んでいると感じます。エアハースの社員は多くの傷を負って亡くなった人を、パスポートの写真を元にまるでただ眠っているかのような姿にエンバーミングし直します。穏やかな顔になった亡骸との対面を通して、悲嘆に暮れる遺族の心は少しずつ癒されていくということを信じて、社員たちは時間との戦いの中、決してあきらめずに遺体を修復し、常に最大限できることをやりきるという姿には心を打たれます。そして、この作品を書くにあたって、著者の佐々さんが原稿掲載を拒む遺族と作品の完成との間で板挟みになって苦しんでいるエピソードは、世の中に真実を伝えようとする「物書き」の良心がにじみ出ていて、重い内容にもかかわらず読んだ後に清々しさが残ります。エアハースの社員も佐々さんも接する相手の状況や心情を尊重し、名声や利益を超えて自分の為すべきことに立ち向かい、結果的に多くの人から感謝と信頼を寄せられる立派な仕事成し遂げています。どちらも「プロフェッショナル」とはどういうものかを私たちに示しているのではないでしょうか。

 人生における仕事の意味は人それぞれで、すべての人が「プロフェッショナル」を目指す必要はないと思いますが、これから社会に出ていく中高生の皆さんには、働くということの意味をこの本の中から見つけていただけたら嬉しく思います。 

◆朝井リョウ『桐島、部活やめるってよ』 情報科 竹尾翔

Photo_13 流行モノにすぐには飛びつかないが、しばらく経ってからふと思い立ったときに気になって手に取ってみる、ということはないだろうか。今回紹介する作品にはそのようにして出会った。その前に直木賞を受賞した「何者」を読んでいて、朝井リョウさんの主眼の鋭さと文章の巧さを感じていたので、別の作品も読んでみたいと思っていた。本の選び方は様々な方法があるが、気に入った作者にスポットを当てて複数の著作を読んでいく方法がある。そうすると作者が大切にしている共通のテーマを見いだすことが出来ることもあれば、一つの著作に留まらない作者の多面性を垣間見ることもある。一度実践してみてほしい。彼の作品は図書館に置いてあるので、興味を持ったタイミングで読んでみるのはいかがだろうか。

 どこにでもありそうな男女共学の高校が作品の舞台となっている。登場人物たちの話し言葉から、彼らがどのような地域に暮らしているのか推測することが出来るが、それは重要なファクターではない。同じような環境で生まれ育ったために共感するところは多いのだが、学校という集団に属している中で、一種の普遍的なテーマを持っているということが魅力ではないかと感じている。高校時代を振り返ってみると、部活をやめるということは、とてつもなく大きな出来事だった。その行為が悪のように感じられ、決して許すことの出来ないことだと思われた。途中で投げ出したというレッテルが貼られるような気がして、他人からそのような眼で見られてしまう。そのような恐怖感もあった。そのため部活の仲間が弱音を吐いていることがあると、なんとか説得してみようと働きかけたものだ。説得は相手のためでもあり、自分のためでもあった。結果的には部活をやめた人もいれば残った人もいるのだが、何ともお節介な行動だったようにも思える。部活を最後まで続けることで得たものは非常に大きいが、それが全てではないと思えるのは、一人一人の価値観は異なっていて、それぞれの受け止め方があるからである。

 本作品は映画化もされており、日本アカデミー賞でも様々な賞を獲得している。映画化に当たっては小説とは異なった設定の部分があるが、限られた時間の中で作品を魅力的なものにするための工夫がされている。小説の内容を引き継いだ箇所、内容を描かなかった箇所、新たな場面を追加した箇所など、取捨選択の中で映画も独特の良さを提供してくれる。映画の公開から間もなく一年となるが、DVDやブルーレイディスクでのレンタルが出来るので、こちらも興味があれば見てほしい。小説と合わせて見ることで、作品をより深く味わうことが出来るのではないだろうか。また、ネット上でのレビューも多様で様々な解釈がされているので、参考として見てみると新しい発見があるかもしれない。でもレビューを見るとストーリーが明らかになってしまうので、まずは自身で作品を鑑賞してからがよいだろう。